
2020年、エドワルド・リモノフ死亡。そのニュースはロシアのみならず世界中に衝撃を与えた。詩人にして革命家、亡命者であり兵士。幾つもの顔を持つ彼は、ソビエト連邦下のロシアに生まれ、詩と反骨精神を武器にモスクワ、ニューヨーク、パリへと渡り歩いた。名声と自由を夢見て亡命し、恋人エレナとともに辿り着いた“自由の国”アメリカでは、孤独と挫折に打ちのめされながらも、自らの言葉で世界と闘い続けた。ホームレス、執事、作家、国家ボリシェヴィキ党党首──暴力と詩、愛と怒り、思想と行動のはざまで世界を挑発し続けたその姿は、称賛と危険視の両極で今なお語り継がれる。ソ連崩壊、ユーゴ紛争、ロシアの愛国主義の台頭──激動の時代の只中で彼が愛し、信じ、裏切られ、それでも書き続けたものとは何だったのか。なぜ彼はロシアの地に舞い戻ったのか?実在した“希代のカリスマ”の激動の軌跡を、圧巻の映像ともに描き出す、愛と破滅のバラード。
若い頃、リモノフの機関紙『リモンカ』を読んでいた。そのあと、社交の場で会ったことはあるけど、当時もその後も話したことはない。ザハール・プリレーピンの小説を下敷きとした私の舞台『SCUMBAGS (OTMOROSKI)(原題)』を上演したときには、観にきてくれたよ。舞台の後、一緒に写真を撮った。言葉を交わすことはなかったが、かつて偶像視していたリモノフが同じ地平に降りてきたような感じがした。
物議を醸す、矛盾をはらんだ人物……というのがリモノフを理解する鍵となる。繰り返しになるけれど、実在したリモノフのことではなくて、私が作りあげたキャラクター、抒情的なエディのことだ。原作者エマニュエル・キャレールが言うように、彼は小説の主人公のようで、倫理観を持ちあわせていない。でもどことなく詩的なところがある。オルタナ詩人で、恋多く情熱的だ……かと思えば、軍国的、帝国的でファシストでもある……彼は最愛のエレナを失い、望んだ栄光もつかめなかったために世界のすべてを憎むようになる。彼はまさしくアンチヒーロー、ロシアの「ジョーカー」のようなものだ。